刑法37条 緊急避難

第37条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 
2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。


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判例は危険の切迫性の不存在ゆえに緊急避難の成立を否定したものの、社会的法益を本条の保護法益として捉えているかのような判断をしている。

cf. 最判昭35・2・4(昭和34(あ)949 爆発物取締罰則違反、往来妨害) 全文

判示事項
 過剰避難と認められない事例

裁判要旨
 吊橋が腐朽甚しく、いつ落下するかも知れないような危険な状態にあつたとしても、ダイナマイトを使用してこれを爆破する行為については、緊急避難を認める余地なく、従つてまた過剰避難も成立しえない。

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「やむを得ずにした行為」とは、当該避難行為をする以外には方法がなく、かかる行動に出たことが条理上肯定し得る場合を意味するとしています。

cf. 最大判昭24・5・18(昭和22(れ)319  脅迫) 全文

判示事項
 一 憲法第二八條にいわゆる團結權の意義と大衆運動の合法性の限界
 二 刑法第三七條の緊急避難の意義
 三 自救行爲の意義
 四 食糧その他の生活必需物資が缺乏している状況下において國民の各自又は任意の集團が、隱退藏物資の交付を保管者に對し要求し得べき權利の有無
 五 昭和二〇年法律第五一号労働組合法第一条第二項の法意

裁判要旨
 一 憲法第二八条はこの趣旨において、企業者對勤労者すなわち使用者對被用者というような關係に立つものの間において、經濟上の弱者である勤労者のために團結權乃至團体行動權を保障したものに外ならないそれ故、この團結權に關する憲法の保障を勤労者以外の團体又は個人の單なる集合に過ぎないものに對してまで擴張せんとする論旨の見解にはにわかに賛同することはできないのである、もとり一般民衆が法規その他公序良俗に反しない限度において、所謂大衆運動なるものを行い得べきことは、何人も異論のないところであらうけれど、その大衆運動なるの一事から苟くもその運動に關する行爲である限り常にこれを正當行爲なりとして刑法第三五條に從い刑罰法令の適用を排除すべきであると結論することはできない。
 二 緊急避難とは「自己又ハ他人ノ生命身体自由若クハ財産ニ對スル現在ノ危難ヲ避クル爲メ己ムコトヲ得ザルニ出デタル行爲」というのであり、右所謂「現在ノ危難」とは現に危難の切迫していることを意味し又「己ムコトヲ得ザルニ出デタル」というのは當該避難行爲をする以外には他に方法がなく、かゝる行動に出たことが條理上肯定し得る場合を意味するのである。
 三 自救行爲とは一定の權利を有するものが、これを保全するため官憲の手を待つに遑なく自ら直ちに必要の限度において適當なる行爲をすること例えば盜犯の現場において被害者が賍物を取還すが如きをいうのである。
 四 所論は本件被告事件の發生當時わが國内における食糧事情が、その他の生活必需物資を含め缺乏を告げ國民生活の上に危機迫らんとする虞ある状況にあつた旨、並びにかかる状況下において、不當に隱退藏せられている生活必需物資が存在するならば須らくこれを摘發して國民一般の需要に充つべきである旨主張するものであるが、假りに所論の通りであるとしても、他に法律上の事由の存在しない限り、これがために直ちに國民の各自又は任意の集團がそれぞれ自己のために直接該物資の保管者に對しこれが交付を要求し得べき權利ありとすることはできない。
 五 昭和二〇年法律第五一号労働組合法第一条第二項の規定は、同条第一項の目的達成のためにした正当な行為についてのみ、刑法第三五条の適用を認めたに過ぎず、勤労者の団体交渉においても、刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまで、その適用があることを定めたものではない。

刑法38条 故意

第38条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
 
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
 
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。


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Un pas de plus ! もう一歩先へ 1項:

法定的符合説に立ちつつ、数故意犯説を採用。学説は法定的符合説について、構成要件の範囲内で故意を抽象化する以上、故意に個数を観念できないと考えるのが自然であるとして、一罪の故意犯の意思をもってした場合に、複数の故意犯の成立を認める数故意犯説に親和的であるとする。

cf. 最判昭53・7・28(昭和52(あ)623 強盗殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反) 全文

判示事項
 強盗殺人未遂罪といわゆる打撃の錯誤

裁判要旨
 犯人が強盗の手段として人を殺害する意思のもとに銃弾を発射して殺害行為に出た結果、犯人の意図した者に対して右側胸部貫通銃創を負わせたほか、犯人の予期しなかつた者に対しても腹部貫通銃創を負わせたときは、後者に対する関係でも強盗未遂罪が成立する。

Un pas de plus ! もう一歩先へ 2項:

事実の錯誤において故意を認めるために、構成要件の重なり合いを前提に、「両罪の構成要件が実質的に重なり合う限度で軽い」犯罪の「故意が成立し同罪が成立する」とする考え方(法定的符合説)

cf. 最決昭61・6・9(昭和61(あ)172  大麻取締法違反、麻薬取締法違反) 全文

判示事項
 一 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合の罪責
 二 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合における没収の適条

裁判要旨
 一 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合には、麻薬取締法六六条一項、二八条一項の麻薬所持罪が成立する。
 二 覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩粉末を麻薬であるコカインと誤認して所持した場合における覚せい剤の没収は、覚せい剤取締法四一条の六によるべきである。

 
Un pas de plus ! もう一歩先へ 2項:
cf. 最判昭23.5.1( 昭和23(れ)105 窃盗、賍物故買) 全文

判示事項
 窃盗の意思で強盗の見張をした者の責任

裁判要旨
 被告人以外の共犯者は最初から強盗の意思で強盗の結果を實現したのであるがただ被告人だけは輕い窃盗の意思で他の共犯者の勸誘に應じて屋外で見張をしたと云うのであるから、被告人は輕い窃盗の犯意で重い強盗の結果を發生させたものであるが、共犯者の強盗所爲は、被告人の豫期しないところであるからこの共犯者の強盗行爲について、被告人に強盗の責任を問うことはできない譯である。然らば、原判決が被告人に對し刑法第三八條第二項により窃盗罪として處斷したのは正當である。

Un pas de plus ! もう一歩先へ 2項:
cf. 最判昭25・4・11(昭和24(れ)2893 強盗) 全文

判示事項
 共謀と刑法第三八條第二項

裁判要旨
 被告人がA等と恐喝の共謀をして現場に臨んだところ、Aが共謀の範圍を超えて強盜の既遂をした事實を認定するに十分である。してみると被告人は刑法第三八條第二項によつて恐喝既遂の責任を負うべきは當然である。

Un pas de plus ! もう一歩先へ 2項:
cf. 最判昭25・10・10(昭和25(れ)400  傷害致死幇助、銃砲等所持禁止令違反) 全文

判示事項
 正犯が人に傷害を加えるべきことを認識して幇助したところ正犯が殺害した場合における幇助者の罪責

裁判要旨
 原判決は、被告人が正犯たるAにおいて判示被害者両名に傷害を加えるに至るかも知れないと認識しながら判示匕首を貸与したところ、右Aが殺人の意思を以つて該匕首により被害者両名を刺殺した場合には、被告人は傷害致死幇助として刑法第二〇五条、同第六二条第一項をもつてこれを処断すべきである。

Un pas de plus ! もう一歩先へ 1項:
荷物が覚醒剤であるとの認識がなくとも、覚醒剤を含む違法な薬物であるとの認識があれば、覚醒剤取締法の輸入罪の故意が認められる。
 
cf. 最決平2・2・9(平成1(あ)1038  覚せい剤取締法違反、関税法違反) 全文

判示事項
 覚せい剤輸入罪及び所持罪における覚せい剤であることの認識の程度

裁判要旨
 

Un pas de plus ! もう一歩先へ
cf. 最決昭54・3・27(昭和52(あ)836  麻薬取締法違反、関税法違反) 全文

判示事項
 一 営利の目的で麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合とその罪責
 二 税関長の許可を受けないで麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合とその罪責

裁判要旨
 一 営利の目的で、麻薬であるジアセチルモルヒネの塩類粉末を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、麻薬取締法六四条二項、一項、一二条一項の麻薬輸入罪が成立する。
 二 税関長の許可を受けないで、麻薬を覚せい剤と誤認して輸入した場合には、関税法一一一条一項の無許可輸入罪が成立する。

Un pas de plus ! もう一歩先へ ただし書き:

行政刑罰法規に関して、過失行為を処罰する旨の明文の規定がない場合であっても、「その取締る事柄の本質にかんがみ」過失行為を処罰しうるとしています。
これは、当該特別法の目的から、罰則を定めた法条に過失行為を処罰する趣旨が包含されていると認められるときには、同法条が刑法38条1項ただし書きに規定される特別の規定に含まれるとしたものと解されています。

cf. 最判昭37・5・4(昭和35(あ)2945 賍物故買、古物営業法違反) 全文

判示事項
 一 古物営業法第一七条にいう「その都度」の意義
 二 同法第二九条、第一七条の法意
 三 同法第二九条、第一七条の合憲性

裁判要旨
 一 古物営業法第一七条にいう「その都度」とは、「そのたびごとに」の意に解すべきである。
 二 同法第二九条で処罰する「同法第一七条の規定に違反した者」とは故意に所定の記帳をしなかつた者ばかりでなく、過失により記帳しなかつた者をも包含する法意であると解すべきである。
 三 同法第二九条、第一七条の規定は、憲法第三八条第一項に違反しない。