家事事件手続法194条 遺産の換価を命ずる裁判

第194条 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部を競売して換価することを命ずることができる。
 
2 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部又は一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない。
 
3 前二項の規定による裁判(以下この条において「換価を命ずる裁判」という。)が確定した後に、その換価を命ずる裁判の理由の消滅その他の事情の変更があるときは、家庭裁判所は、相続人の申立てにより又は職権で、これを取り消すことができる。
 
4 換価を命ずる裁判は、第八十一条第一項において準用する第七十四条第一項に規定する者のほか、遺産の分割の審判事件の当事者に告知しなければならない。
 
5 相続人は、換価を命ずる裁判に対し、即時抗告をすることができる。
 
6 家庭裁判所は、換価を命ずる裁判をする場合において、第二百条第一項の財産の管理者が選任されていないときは、これを選任しなければならない。
 
7 家庭裁判所は、換価を命ずる裁判により換価を命じられた相続人に対し、遺産の中から、相当な報酬を与えることができる。
 
8 第百二十五条の規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第六項の規定により選任した財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。


e-Gov 家事事件手続法

民法948条 相続人の固有財産からの弁済

第948条 財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者は、相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有財産についてその権利を行使することができる。この場合においては、相続人の債権者は、その者に先立って弁済を受けることができる。


e-Gov 民法

家事事件手続法189条 遺産の管理に関する処分の審判事件

第189条 推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件は、推定相続人の廃除の審判事件又は推定相続人の廃除の審判の取消しの審判事件が係属している家庭裁判所(その審判事件が係属していない場合にあっては相続が開始した地を管轄する家庭裁判所、その審判事件が抗告裁判所に係属している場合にあってはその裁判所)の管轄に属する。
 
2 第百二十五条第一項から第六項までの規定は、推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件において選任した管理人について準用する。この場合において、同条第一項、第二項及び第四項中「家庭裁判所」とあるのは「推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分を命じた裁判所」と、同条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは「遺産」と読み替えるものとする。
 
3 推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分を命じた裁判所は、推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判が確定したときは、廃除を求められた推定相続人、前項の管理人若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、その処分の取消しの裁判をしなければならない。


e-Gov 家事事件手続法

刑法35条 正当行為

第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。


e-Gov 刑法

 

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cf. 最決昭51・3・23(昭和46(あ)758 名誉毀損) 全文

判示事項
 一 名誉毀損の摘示事実につき真実と誤信する相当の根拠がないとされた事例
 二 弁護人が被告人の利益擁護のためにした行為と刑法上の違法性の阻却
 三 弁護人が被告人の利益擁護のためにした名誉毀損行為につき正当な弁護活動として刑法上の違法性が阻却されないとされた事例

裁判要旨
 一 被告人以外の特定人が真犯人である旨の名誉毀損の摘示事実(判文参照)については、本件に現われた資料に照らすと、真実と誤信するのが相当であると認めうる程度の根拠は、存在しない。
 二 弁護人が被告人の利益を擁護するためにした行為につき刑法上の違法性の阻却を認めるためには、それが弁護活動のために行われたものであるだけでは足りず、行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮して、法秩序全体の見地から許容されるべきものと認められなければならないのであり、かつ、その判断にあたつては、その行為が法令上の根拠をもつ職務活動であるかどうか、弁護目的の達成との間にどのような関連性をもつか、弁護を受ける被告人自身がこれを行つた場合に刑法上の違法性の阻却を認めるべきどうかの諸点を考慮に入れるのが相当である。
 三 被告人以外の特定人が真犯人であることを広く社会に報道して、世論を喚起し、被告人を無罪とするための証拠の収集につき協力を求め、かつ、最高裁判所の職権発動による原判決の破棄ないしは再審請求の途をひらくため、右の特定人が真犯人である旨の事実摘示をした名誉毀損行為(判文参照)は、弁護人の相当な弁護活動として刑法上の違法性を阻却されるものではない。

 
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cf. 最大判昭38・5・15( 昭和36(あ)485  傷害致死) 全文

判示事項
 一 加持祈祷の結果人を死亡させた行為と憲法第二〇条第一項
 二 捜査の必要上、宗教的行事の外形を再現した検証調書と証拠能力の有無

裁判要旨
 一 精神異常者の平癒を祈願するために宗教行為として加持祈祷行為がなされた場合でも、それが原判決の認定したような他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当るものであり、それにより被害者を死に致したものである以上、憲法第二〇条第一項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかなく、これを刑法第二〇五条に該当するものとして処罰することは、何ら憲法の右条項に反するものではない。
 二 上告趣意第五中に、司法警察員作成の昭和三三年一〇月二五日付検証調書の内容である検証は、宗教的所作を、宗教を伴わないで再現しようとしたものであつて、宗教に対する冒涜であるから、かかる検証調書は、証拠能力を有しない旨の主張があるが、捜査の必要上、宗教行為としてでなく、宗教的行事の外形を再現したからといつて、その一事をもつてそれが宗教に対する冒涜であり、その状況を記載した検証調書が証拠能力を有しないものであるということはできない。

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cf. 最判昭50・4・3(昭和48(あ)722  傷害) 全文

判示事項
 一、現行犯逮捕のため犯人を追跡した者の依頼により追跡を継続した行為を適法な現行犯逮捕の行為と認めた事例
 二、現行犯逮捕のための実力行使と刑法三五条
 三、現行犯逮捕のための実力行使に刑法三五条が適用された事例

裁判要旨
 一 あわびの密漁犯人を現行犯逮捕するため約三〇分間密漁船を追跡した者の依頼により約三時間にわたり同船の追跡を継続した行為(判文参照)は、適法な現行犯逮捕の行為と認めることができる。
 二 現行犯逮捕をしようとする場合において、現行犯人から抵抗を受けたときは、逮捕をしようとする者は、警察官であると私人であるとを問わず、その際の状況からみて社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内の実力を行使することが許され、たとえその実力の行使が刑罰法令に触れることがあるとしても、刑法三五条により罰せられない。
 三 あわびの密漁犯人を現行犯逮捕するため密漁船を追跡中、同船が停船の呼びかけに応じないばかりでなく、三回にわたり追跡する船に突込んで衝突させたり、ロープを流してスクリューにからませようとしたため、抵抗を排除する目的で、密漁船の操舵者の手足を竹竿で叩き突くなどし、全治約一週間を要する右足背部刺創の傷害を負わせた行為(判文参照)は、社会通念上逮捕をするために必要かつ相当な限度内にとどまるものであり、刑法三五条により罰せられない。

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cf. 最判昭46・7・30(昭和45(あ)1358  建造物損壊、器物毀棄) 全文

判示事項
 自救行為の主張と刑訴法三三五条二項

裁判要旨
 自救行為の主張は、刑訴法三三五条二項の主張にあたる。

 
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cf. 最判昭30・11・11(昭和28(あ)5224  建造物損壊) 全文

判示事項
 建造物損壊と自救行為

裁判要旨
 被告人がその所有家屋(店舗)を増築する必要上、自己の借地内につきでていたA所有家屋の玄関の軒先を間口八尺奥行一尺にわたりAの承諾をえないで切り取つた場合において、右玄関はAが建築許可を受けないで不法に増築したものであり、また被告人の店舗増築は経営の危機を打開するため遷延を許さない事情にあつて、右軒先の切除によりAのこうむる損害に比しこれを放置することにより被告人の受ける損害は甚大であつてとしても、被告人の右建造物損壊行為が自救行為としてその違法性を阻却されるものではない。

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西山記者事件

cf. 最決昭53・5・31(昭和51(あ)1581 国家公務員法違反) 全文

判示事項
 一 国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密の意義
 二 国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密の判定
 三 外交交渉の概要が記載された電信文案が国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密にあたるとされた事例
 四 違法秘密にあたらないとされた事例
 五 国家公務員法一一一条にいう同法一〇九条一二号、一〇〇条一項所定の行為の「そそのかし」の意義
 六 国家公務員法一一一条、一〇九条一二号、一〇〇条一項の「そそのかし」罪の構成要件にあたるとされた事例
 七 報道機関による公務員を対象とした秘密の取材と正当業務行為
 八 正当な取材活動の限界
 九 正当な取材活動の範囲を逸脱しているとされた事例
―いわゆる外務省秘密漏洩事件―

裁判要旨
 一 国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密とは、非公知の事実であつて、実質的にもそれを秘密として保護するに値するものをいい、その判定は、司法判断に服する。
 二 昭和四六年五月二八日に愛知外務大臣とマイヤー駐日米国大使との間でなされた、いわゆる沖縄返還協定に関する会談の概要が記載された本件一〇三四号電信文案は、国家公務員法一〇九条一二号、一〇〇条一項にいう秘密にあたる。
 三 本件対米請求権問題の財源についてのいわゆる密約は、政府がこれによつて憲法秩序に抵触するとまでいえるような行動をしたものではなく、違法秘密ではない。
 四 国家公務員法一一一条にいう同法一〇九条一二号、一〇〇条一項所定の行為の「そそのかし」とは、右一〇九条一二号、一〇〇条一項所定の秘密漏示行為を実行させる目的をもつて、公務員に対し、その行為を実行する決意を新たに生じさせるに足りる慫慂行為をすることを意味する。
 五 外務省担当記者であつた被告人が、外務審議官に配付又は回付される文書の授受及び保管の職務を担当していた女性外務事務官に対し、「取材に困つている、助けると思つて安川審議官のところに来る書類を見せてくれ。君や外務省には絶対迷惑をかけない。特に沖縄関係の秘密文書を頼む。」という趣旨の依頼をし、さらに、別の機会に、同女に対し「五月二八日愛知外務大臣とマイヤー大使とが請求権問題で会談するので、その関係書類を持ち出してもらいたい。」旨申し向けた行為は、国家公務員法一一一条、一〇九条一二号、一〇〇条一項の「そそのかし」罪の構成要件にあたる。
 六 報道機関が公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
 七 当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど取材対象者の人格を著しく蹂躪した本件取材行為(判文参照)は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。

 
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cf. 最大判昭48・4・25(昭和43(あ)837  住居侵入、公務執行妨害) 全文

判示事項
 一、勤労者の争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について違法性阻却事由の有無を判断する一般的基準
 二、A労働組合員らの争議行為の際における信号所侵入行為が刑法上の違法性を欠くものでなくその刑事責任を問うことが憲法二八条に違反しないとされた事例
 三、鉄道営業法四二条一項により鉄道係員が旅客公衆を車外または鉄道地外に退去させるにあたり必要最少限度の強制力を用いることの可否と憲法三一条
 四、旧「鉄道公安職員基本規程」(昭和二四年一一月一八日総裁達四六六号)三条、五条(現「鉄道公安職員基本規程(管理規程)」(昭和三九年四月一日総裁達一六〇号)二条、四条)に定める鉄道公安職員の鉄道施設警備等の職務と公務執行妨害罪における公務
 五、A労働組合員らの争議行為の際におけるてこ扱所二階の信号所への立入り、同所に通ずる階段へのすわり込みが鉄道営業法三七条、四二条一項三号にいう公衆がみだりに鉄道地内に立ち入つた場合にあたるとされた事例
 六、鉄道公安職員がてこ扱所二階の信号所に立ち入り同所に通ずる階段にすわり込んだA労働組合員らを鉄道営業法四二条一項により退去させる場合に許される強制力行使の程度

裁判要旨
 一 勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、その行為が争議行為に際し行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない。
 二 A労働組合員らの争議行為の際における被告人ら三名の本件信号所各侵入行為(被告人甲は、信号所の勤務員三名を勧誘、説得してその職務を放棄させ、勤務時間内の職場集会に参加させる意図をもつて、駅長の禁止に反して侵入したもの、また、被告人乙および丙は、労働組合員ら多数が同信号所を占拠した際にこれに加わり、それぞれ侵入したもの。判文参照)は、いずれも刑法上違法性を欠くものではない。このように解して被告人ら三者の刑事責任を問うことは、憲法二八条に違反しない。
 三 鉄道営業法四二条一項により鉄道係員が当該の旅客、公衆を車外または鉄道地外に退去させるにあたつて、旅客、公衆が自発的な退去に応じない場合、または危険が切迫する等やむをえない場合には、鉄道係員において当該具体的事情に応じて必要最少限度の強制力を用いることができる。このように解しても、憲法三一条に違反しない。 (注)判示事項および裁判要旨の四項以下はカード番号二六号の二に続く。
 四 旧「鉄道公安職員基本規程」(昭和二四年一一月一八日総裁達四六六号)三条、五条(現「鉄道公安職員基本規程(管理規程)」(昭和三九年四月一日総裁達一六〇号)二条、四条)に定める鉄道公安職員の鉄道施設警備等の職務は、公務執行妨害罪における公務にあたる。
 五 A労働組合員らの本件てこ扱所二階の信号所への立入り、同所に通ずる階段へのすわり込み(判文参照)は、鉄道営業法三七条、四二条一項三号にいう公衆が鉄道地内にみだりに立ち入つた場合にあたる。
 六 鉄道公安職員は、本件てこ扱所二階の信号所に立ち入り、同所に通ずる階段にすわり込んだA労働組合員らを鉄道営業法四二条一項により退去させるにあたつては、必要最少限度の強制力の行使として、自発的な退去を促したのに、これに応じないで階段の手すりにしがみつき、あるいはたがいに腕を組む等をして居すわつている者に対し、手や腕を取つてこれをほどき、身体に手をかけて引き、あるいは押し、必要な場合にはこれをかかえ上げる等して階段から引きおろし、退去の実効を収めるために必要な限度で階段下から適当な場所まで腕をとつて進行する等の行為をもなしうるものであり、このような行為が必要最少限度のものかどうかは、労働組合員らの抵抗の状況等の具体的事情を考慮して決定すべきものである。

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cf. 最判昭27・3・7(昭和26(れ)1931  誣告、名譽毀損) 全文

判示事項
 被告人の防禦権の行使と名誉毀損罪の成立

裁判要旨
 誣告被告事件の公判廷において、被告人が弁解として故意に虚偽の事実を陳述して、公然誣告の相手方の名誉を毀損することは、被告人としての防禦権を濫用するものであつて、その行為につき名誉毀損罪が成立する。

刑法36条 正当防衛

第36条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
 
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。


e-Gov 刑法

 

Un pas de plus ! もう一歩先へ 2項:
cf. 最決昭41・7・7(昭和40(あ)1998  殺人未遂、銃砲刀剣類等所持取締法違反) 全文

判示事項
 殺人未遂罪につき誤想過剰防衛が認められた事例。

裁判要旨
 被告人の長男甲が乙に対し、乙がまだなんらの侵害行為に出ていないのに、これに対し所携のチエーンで殴りかかつた上、なお攻撃を加えることを辞さない意思をもつて、庖丁を擬した乙と対峙していた際に、甲の叫び声を聞いて表道路に飛び出した被告人は、右のごとき事情を知らず、甲が乙から一方的に攻撃を受けているものと誤信し、その侵害を排除するため乙に対し猟銃を発射し、散弾の一部を同人の右頸部前面鎖骨上部に命中させたものであること、その他原判決認定の事実関係(原判文参照)のもとにおいては、被告人の本件所為は、誤想防衛であるが、その防衛の程度を超えたものとして、刑法第三六条第二項により処断すべきものである。

Un pas de plus ! もう一歩先へ 2項:
cf. 最決昭62・3・26(昭和59(あ)1699  傷害致死) 全文

判示事項
 傷害致死につき誤想過剰防衛であるとされた事例

裁判要旨
 空手三段の在日外国人が、酩酊した甲女とこれをなだめていた乙男とが揉み合ううち甲女が尻もちをついたのを目撃して、甲女が乙男から暴行を受けているものと誤解し、甲女を助けるべく両者の間に割つて入つたところ、乙男が防衛のため両こぶしを胸に前辺りに上げたのを自分に殴りかかつてくるものと誤信し、自己及び甲女の身体を防衛しようと考え、とつさに空手技の回し蹴りを乙男の顔面付近に当て、同人を路上に転倒させ、その結果後日死亡するに至らせた行為は、誤信にかかる急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱し、誤想過剰防衛に当たる。

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cf. 最決平29・4・26(平成28(あ)307  殺人,器物損壊被告事件) 全文

単に予期したに留まらず、その機会を利用して積極的に加害する意思が肯定できれば「急迫」性が否定される。

判示事項
 侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合における刑法36条の急迫性の判断方法

裁判要旨
 行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合,侵害の急迫性の要件については,対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきであり,事案に応じ,行為者と相手方との従前の関係,予期された侵害の内容,侵害の予期の程度,侵害回避の容易性,侵害場所に出向く必要性,侵害場所にとどまる相当性,対抗行為の準備の状況(特に,凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等),実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同,行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し,緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに私人による対抗行為を許容した刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には,侵害の急迫性の要件を充たさないものというべきである。

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cf. 最決昭52・7・21(昭和51(あ)671  兇器準備集合、暴力行為等処罰に関する法律違反) 全文

判示事項
 刑法三六条における侵害の急迫性

裁判要旨
 刑法三六条における侵害の急迫性は、当然又はほとんど確実に侵害が予期されただけで失われるものではないが、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは失われることになる。

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cf. 最判昭44・12・4(昭和44(あ)1165 傷害) 全文

判示事項
 刑法三六条一項にいう「已ムコトヲ得サルニ出テタル行為」の意義

裁判要旨
 刑法三六条一項にいう「已ムコトヲ得サルニ出テタル行為」とは、反撃行為が急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を有することを意味し、右行為によつて生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であつても、正当防衛行為でなくなるものではない。

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cf. 最判昭46・11・16(昭和45(あ)2563  殺人) 全文

判示事項
 一 刑法三六条にいう「急迫」の意義
 二 刑法三六条の防衛行為と防衛の意思
刑法三六条の防衛行為と防衛の意思」

裁判要旨
 一 刑法三六条にいう「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫つていることを意味し、その侵害があらかじめ予期されていたものであるとしても、そのことからただちに急迫性を失うものと解すべきではない。
 二 刑法三六条の防衛行為は、防衛の意思をもつてなされることが必要であるが、相手の加害行為に対し憤激または逆上して反撃を加えたからといつて、ただちに防衛の意思を欠くものと解すべきではない。

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cf. 最決平20・5・20(平成18(あ)2618  傷害被告事件) 全文

判示事項
 被告人が,自らの暴行により相手方の攻撃を招き,これに対する反撃としてした傷害行為について,正当防衛が否定された事例

裁判要旨
 相手方から攻撃された被告人がその反撃として傷害行為に及んだが,被告人は,相手方の攻撃に先立ち,相手方に対して暴行を加えているのであって,相手方の攻撃は,被告人の暴行に触発された,その直後における近接した場所での一連,一体の事態ということができ,被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから,相手方の攻撃が被告人の上記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては,被告人の上記傷害行為は,被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえない。

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cf. 最判昭32・1・22(昭和29(あ)1808   殺人) 全文

判示事項
 喧嘩と正当防衛

裁判要旨
 喧嘩闘争において正当防衛が成立するかどうかを判断するに当つては喧嘩闘争を全般的に観察することを要し、闘争行為中の瞬間的な部分の攻防の態様のみによつてはならない。

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cf. 最判昭50・11・28(昭和49(あ)2786 殺人未遂) 全文

防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は、防衛の意思を欠く結果、正当防衛のための行為と認めることはできないが、防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合の行為は、防衛の意思を欠くものではない

判示事項
 防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合と刑法三六条の防衛行為

裁判要旨
 急迫不正の侵害に対し自己又は他人の権利を防衛するためにした行為であるかぎり、同時に侵害者に対する攻撃的な意思に出たものであつても、刑法三六条の防衛行為にあたる。

 
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cf. 最判昭24・8・18(昭和24(れ)295 傷害) 全文

判示事項
 一 刑法第三六條にいわゆる「急迫」の意義―刑法第三七條にいわゆる「現在の危難」の意義
 二 公益のための正當防衞
 三 國家的公共的法益の侵害等に對する私人の正當防衞行爲の限界

裁判要旨
 一 刑法第三六條にいわゆる急迫の侵害における「急迫」とは、法益の侵害が間近に押し迫つたことすなわち法益侵害の危險が緊迫したことを意味するのであつて、被害の現在性を意味するものではないまた刑法第三七條にいわゆる「現在の危難」についても、ほぼこれと同様のことが云い得るわけである。

 二 公共の福祉を最高の指導原理とする新憲法の理念からいつても、公共の福祉をも含めてすべての法益は、國家的、國民的、公共的法益についても正當防衞の許さるべき場合が存することを認むべきである。だがしかし、本來國家的、公共的法益を保全防衞することは、國家又は公共團體の公的機關の本來の任務に属する事柄であつて、これをた易く事由に私人又は私的團體の行動に委することは却つて秩序を亂し事態を悪化せしむる危險を伴う虞がある。それ故、かかる公益のための正當防衞等は、國家公共の機關の有効な公的活動を期待し得ない極めて緊迫した場合においてのみ例外的に許容さるべきものと解するを相當とする。そこで原判決の判示した具體的な客觀的事態情勢は、國家公共の機關(連合國の占領下にある現状においては、占領軍機關をも含めて)の有効な公的活動を期待し得ない極めて緊迫した場合に該當するに至つたものとは到底認めることができない從つてかかる事態の下においては、被告人の行動を正當防衞又は緊急避難として寛恕するを得ないものと云わねばならぬ。

 三 防衞行爲が己むことを得ないとは、當該具體的事態の下において當時の社會的通念が、防衞行爲として當然性、妥當性を認め得るものを云うのである。そして、殊に國家的公共的法益に對する侵害等を私人が防衞する場合に、己むことを得ざるものとして當然許容さるべき範圍は、整備せる現在國家の機構組織の下において、必然的に比較的極めて狭少な限局されたものたるべきことは國家理論の歸結として何人も承認しなければならぬところである。

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cf. 最判平21・7・16(平成20(あ)1870  暴行被告事件) 全文

判示事項
 財産的権利等を防衛するためにした暴行が刑法36条1項にいう「やむを得ずにした行為」に当たるとされた事例

裁判要旨
 相手方らが立入禁止等と記載した看板を被告人方建物に取り付けようとすることによって被告人らの上記建物に対する共有持分権,賃借権等や業務,名誉に対する急迫不正の侵害に及んだのに対し,上記権利等を防衛するために被告人が相手方の胸部等を両手で突いた暴行は,相手方らが以前から継続的に被告人らの上記権利等を実力で侵害する行為を繰り返しており,上記暴行の程度が軽微であるなどの事実関係(判文参照)の下においては,防衛手段としての相当性の範囲を超えるものではない。

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cf. 最判平1・11・13(昭和61(あ)782 暴力行為等処罰に関する法律違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反) 全文

判示事項
 刑法三六条一項にいう「巳ムコトヲ得サルニ出テタル行為」に当たるとされた事例

裁判要旨
 年齢も若く体力にも優れた相手方が、「お前、殴られたいのか。」と言って手拳を前に突き出し、足を蹴り上げる動作をしながら目前に迫ってきたなど判示のような状況の下において、危害を免れるため、菜切包丁を手に取ったうえ腰のあたりに構えて脅迫した本件行為は、いまだ防衛手段として相当性の範囲を超えたものとはいえない。

 
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cf. 最判昭60・9・12(昭和59(あ)1256  殺人) 全文

判示事項
 殺人につき防衛の意思を欠くとはいえないとされた事例

裁判要旨
 被告人が、自己の経営するスナツク店内において、相手方から一方的にかなり激しい暴行を加えられているうち、憎悪と怒りから調理場にあつた文化包丁を持ち出し、「表に出てこい」などと言いながら出入口へ向かつたところ、相手方から物を投げられ、「逃げる気か」と言つて肩を掴まれるなどしたため、更に暴行を加えられることをおそれ、振り向きざま手にした包丁で相手方の胸部を一突きして殺害した本件事実関係のもとにおいては(判文参照)、被告人の行為は、「表に出てこい」などの言辞があつたからといつて、専ら攻撃の意思に出たものとはいえず、防衛の意思を欠くことにはならない。