また 一本 をとりて 亡児真一 に 手向 く

 
また 一本 をとりて 亡児真一 に 手向 く。 この 集 の 稿本 を 書肆 の 手 に 渡 したるは 汝 の 生 れたる 朝 なりき。 この 集 の 稿料 は 汝 の 薬餌 となりたり。 而 してこの 集 の 見本刷 を 予 の 閲 したるは 汝 の 火葬 の 夜 なりき。


<<石川啄木. 一握の砂(青空文庫)>>