民法715条 使用者等の責任

第715条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
 
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
 
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。


e-Gov 民法

 

もう一歩先へ
本条1項の「事業の執行について」と一般法人法78条の「職務を行うについて」とはほぼ同じ意味で、客観的に行為の外形を標準として判断されます(外形標準説)。
 
Un pas de plus ! もう一歩先へ 3項:

公平等の観点から使用者等から被用者に対する求償権を、信義則上相当な限度に制限している

cf. 最判昭51・7・8(昭和49(オ)1073  損害賠償請求) 全文

判示事項
 使用者がその事業の執行につき被用者の惹起した自動車事故により損害を被つた場合において信義則上被用者に対し右損害の一部についてのみ賠償及び求償の請求が許されるにすぎないとされた事例

裁判要旨
 石油等の輸送及び販売を業とする使用者が、業務上タンクローリーを運転中の被用者の惹起した自動車事故により、直接損害を被り、かつ、第三者に対する損害賠償義務を履行したことに基づき損害を被つた場合において、使用者が業務上車両を多数保有しながら対物賠償責任保険及び車両保険に加入せず、また、右事故は被用者が特命により臨時的に乗務中生じたものであり、被用者の勤務成績は普通以上である等判示の事実関係のもとでは、使用者は、信義則上、右損害のうち四分の一を限度として、被用者に対し、賠償及び求償を請求しうるにすぎない。

Un pas de plus ! もう一歩先へ
cf. 最判昭42・6・30(昭和42(オ)281 損害賠償請求) 全文

判示事項
 「失火ノ責任ニ関スル法律」と民法第七一五条

裁判要旨
 被用者が重大な過失によつて火を失したときは、使用者は、被用者の選任または監督について重大な過失がなくても、民法第七一五条第一項によつて賠償責任を負う。

cf. 失火責任法
Un pas de plus ! もう一歩先へ 2項:

使用者が法人である場合、その代表者が、単に法人の代表機関として一般的業務執行権限を有するにとどまらず、現実に被用者の選任及び監督を担当しているときは、当該代表者は本条2項の代理監督者に該当するとしています。

cf. 最判昭42・5・30(昭和39(オ)368 損害賠償等請求) 全文

判示事項
 夫の負傷によつて妻の被つた精神的苦痛を理由とする妻の慰籍料請求が認められなかつた事例

裁判要旨
 夫が交通事故によつて負傷し後遺症があつても、それが原審認定の程度にとどまり、そのために不具者となつて妻の一生の負担となるほどのものではなく、その他原判決判示のような諸般の事情(原判決理由参照)にあるときは、妻が夫の右負傷によつて被つた自己の精神的苦痛を理由として慰籍料を請求することはできない。

Un pas de plus ! もう一歩先へ 1項:

「事業の執行について」に関して相手が信頼保護の見地から外形理論を採る

cf. 最判昭40・11・30(昭和39(オ)1113 約束手形金請求) 全文
 
判示事項
 被用者の手形偽造行為が民法第七一五条にいう「事業ノ執行ニ付キ」なした行為にあたるとされた事例。

裁判要旨
 会社の会計係中の手形係として判示のような手形作成準備事務を担当していた係員が、手形係を免じられた後に会社名義の約束手形を偽造した場合であつても、右係員が、なお会計係に所属して割引手形を銀行に使送する等の職務を担当し、かつ、会社の施設機構および事業運営の実情から、右係員が権限なしに手形を作成することが客観的に容易である状態に置かれている等判示のような事情があるときは、右手形偽造行為は、民法第七一五条にいう「事業ノ執行ニ付キ」なした行為と解するのが相当である。

Un pas de plus ! もう一歩先へ 1項:

「事業の執行について」に関して外形理論を採りつつ、相手方が悪意重過失の場合には、相手方の信頼を保護する必要がないので、当該要件をみたさないものとした

cf. 最判昭42・11・2(昭和39(オ)1103  損害賠償請求) 全文

判示事項
 被用者の職務権限内において適法に行なわれたものでない行為についての被害者の悪意・重過失と民法第七一五条

裁判要旨
 被用者の取引行為がその外形からみて使用者の事業の範囲内に属すると認められる場合であつても、それが被用者の職務権限内において適法に行なわれたものではなく、かつその相手方が右の事情を知り、または少なくとも重大な過失によつてこれを知らないものであるときは、その相手方である被害者は、民法第七一五条により使用者に対してその取引行為に基づく損害の賠償を請求することができない。