民法916条 相続の承認又は放棄をすべき期間(再転相続)

第916条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。


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甲が死亡して相続が開始し、甲の相続人乙が甲の相続について選択(承認・放棄)する前に死亡し、乙の相続人丙がいる場合を、講学上、再転相続といいます。
本条の「相続人」は乙を、「その者の相続人」は丙を指します。甲の相続を第1次相続、乙の相続を第2次相続、甲を第1次被相続人、乙を第2次被相続人という。

相続税法20条は「相次相続」といいます。同条は、課税の特例なので、両相続の承認が前提になります。

cf. 相続税法20条 相次相続控除
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cf. 最決平17・10・11(遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件) 全文

判示事項
 相続が開始して遺産分割未了の間に第2次の相続が開始した場合において第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときの持戻しの要否

裁判要旨
 相続が開始して遺産分割未了の間に相続人が死亡した場合において,第2次被相続人が取得した第1次被相続人の遺産についての相続分に応じた共有持分権は,実体上の権利であって第2次被相続人の遺産として遺産分割の対象となり,第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときは,その持戻しをして具体的相続分を算定しなければならない

e.g. Pが死亡し、妻Q・子R・S・TがPを相続した後、遺産分割手続未了のまま、Qが死亡し、R・S・TがQを相続したという事案であった。Pの相続について、Qが相続したのは法定相続分(2分の1)に基づく財産か、それとも具体的相続分に基づく財産かが争点となった。同決定は具体的相続分の算定を命じた。
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最判平1・8・9(執行文付与に対する異議事件) 全文

判示事項
 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義

裁判要旨
 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。

e.g. 「相続の承認又は放棄をしないで死亡した者(乙)の相続人(丙)が,当該死亡した者(乙)からの相続(第2次相続)により,当該死亡した者(乙)が承認又は放棄をしなかった相続(第1次相続)における相続人としての地位を,自己(丙)が承継した事実を知った時」が第1次相続の熟慮期間の起算点になる(第1次相続基準説)。


最判平1・8・9は、丙が第1次相続の発生を認識せず、第2次相続の発生のみを認識していた場合については、第1次相続の発生を認識したときが第1次相続の熟慮期間の起算点になると判示しています(第1次相続基準説)。

再転相続で、丙が第1次相続の発生と第2次相続の発生を順次認識していたような場合には、甲の相続についての熟慮期間を乙の相続についての熟慮期間と同一にまで延長し、甲の相続につき必要な熟慮期間が付与されます(第2次相続基準説)(最判昭63・6・21)。