民法938条 相続の放棄の方式

第938条 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。


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要式行為であり、相手方のない単独行為です。

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続の放棄をしなければなりません。

cf. 民法915条 相続の承認又は放棄をすべき期間

相続の放棄について、詐欺・強迫による取消しや錯誤の主張は可能ですが、条件や期限(期限については、放棄には遡及効があるので無意味)はつけることはできません。

また、身分にかかわる行為や相続にかかわる行為は本人の意思の尊重の観点から詐害行為取消しの対象になりません。

cf. 家事事件手続法39条 審判事項

cf. 家事事件手続法201条 相続の承認及び放棄に関する審判事件別表1の95項

cf. 民事訴訟費用等に関する法律3条1項 申立ての手数料別表1の15項

参考 相続の放棄の申述@裁判所

民法915条 相続の承認又は放棄をすべき期間

第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
 
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。


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相続するかどうかを相続人の意思にかからしめる規定です。

被相続人の死亡だけでなく、自分が相続人であることを知ってから期間が計算されます。

相続開始前の放棄の意思表示は無効です。

cf. 民法917条 相続の承認又は放棄をすべき期間(相続人が未成年者又は成年被後見人であるとき)

cf. 民法938条 相続の放棄の方式

熟慮期間の起算においては、初日は算入しません。

cf. 民法140条 期間の起算(日、週、月又は年によって期間を定めたとき)

包括受遺者も、ここにいう「相続人」に含まれるので、熟慮期間中に、単純承認、限定承認、相続放棄のいずれかを選択しなければなりません。

cf. 民法990条 包括受遺者の権利義務

民法901条 代襲相続人の相続分

第901条 第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
 
2 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。


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民法900条 法定相続分

第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
 
 一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
 
 二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
 
 三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
 
 四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。


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平成30年法務省令第29号 民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令

民法(明治二十九年法律第八十九号)第九百九条の二の規定に基づき、同条に規定する法務省令で定める額を定める省令を次のように定める。

民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額は、百五十万円とする。


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民法909条の2 遺産の分割前における預貯金債権の行使

909条の2 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。


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本条により権利行使できる預貯金債権の割合及び額については、個々の預貯金債権ごと、つまり複数の口座がある場合、各別に計算します。

  1. 相続開始時の預貯金債権の額 ☓ 1/3 に
  2. 払い戻しを受ける相続人の法定相続分を乗じる

払戻しを受けることができる金額の限度額は、金融機関ごとに150万円です。

限度額の範囲内で、どの口座からいくら払戻しを受けるかは、請求をする相続人に任されます。

施行日 2019(令和元)年7月1日
 
cf. 改正相続法附則1条 施行期日

cf. 改正相続法附則5条 遺産の分割前における預貯金債権の行使に関する経過措置

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本条の預貯金の払戻し制度については限度額が定められてるため、これをこえる金額については、家事事件手続法200条3項の預貯金債権の仮分割の仮処分が利用することができます。

cf. 家事事件手続法200条 遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分
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預貯金債権が遺贈又は特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言)の対象となっている場合には、所定の債務者対抗要件(遺贈については、cf.民法467条 債権の譲渡の対抗要件、特定財産承継遺言については、cf.民法899条の2第2項 共同相続における権利の承継の対抗要件)が具備された後は、本条に基づき、預貯金の払い戻しを請求することができません。

遺贈又は特定財産承継遺言の対象となっている預貯金債権について、債務者対抗要件が具備されるまでは、本条に基づいて、預貯金の払い戻しを請求することができます。

cf. 遺産分割前の相続預金の払戻し制度@全国銀行協会

民法906の2 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

第906条の2 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
 
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。


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施行日 2019(令和元)年7月1日

cf. 改正相続法附則1条 施行期日

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本条は、相続開始後に処分された場合一般の規定であるのに対し、民法909条の2は遺産に関する預貯金債権の権利行使がされた場合の特則です。

cf. 民法909条の2 遺産の分割前における預貯金債権の行使

民法909条の2では金融機関が、相続人の請求が妥当か判断することが予定されているため、被相続人名義のキャッシュカードによりATMから払い戻した場合等、金融機関がその妥当性を判断できない場合は、本条が適用されます。

民法889条 直系尊属及び兄弟姉妹の相続権

第889条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
 一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
 二 被相続人の兄弟姉妹
 
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。


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もう一歩先へ 2項:
兄弟姉妹の場合、再代襲相続の規定は準用されていません。

cf. 民法887条3項 子及びその代襲者等の相続権

民法887条 子及びその代襲者等の相続権

第887条 被相続人の子は、相続人となる。
 
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
 
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。


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もう一歩先へ 2項:
代襲相続の原因は、相続開始以前の死亡、相続欠格、廃除の3つに限定されているため、相続放棄した者の子は代襲相続しません。
もう一歩先へ 2項ただし書き:
被相続人の子が養子で、その養子に縁組前に出生した子がある場合には、その子は養親との間に法定血族関係がなく、直系卑属に当たらないので、代襲相続権が認められません。

cf. 民法727条 縁組による親族関係の発生
もう一歩先へ 3項:
再代襲相続の規定です。相続人の子も相続開始よりも先に亡くなっているようなときは孫が、孫も亡くなっていればひ孫がという様に、どこまでも被相続人の直系卑属が代襲して相続します。

兄弟姉妹が被相続人よりも先に亡くなっている場合には、再代襲相続の規定は準用されません。

cf. 民法889条2項 直系尊属及び兄弟姉妹の相続権