改正前民法940条 相続の放棄をした者による管理

第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
 
2 第六百四十五条第六百四十六条第六百五十条第一項及び第二項並びに第九百十八条第二項及び第三項の規定は、前項の場合について準用する。


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改正前民法918条 相続財産の管理

第918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
 
2 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
 
3 第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。


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cf. 民法918条 相続人による管理

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「固有財産におけるのと同一の注意」は、「自己の財産に対するのと同一の注意」等と同じ意味です。善管注意義務よりは軽い注意義務で、例えば、物を毀損したとしても、重過失がなければ責任を負いません。
 
cf. 民法413条 受領遅滞
 
cf. 民法659条 無報酬の受寄者の注意義務
 
cf. 民法940条 相続の放棄をした者による管理
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民法916条 相続の承認又は放棄をすべき期間(再転相続)

第916条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。


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甲が死亡して相続が開始し、甲の相続人乙が甲の相続について選択(承認・放棄)する前に死亡し、乙の相続人丙がいる場合を、講学上、再転相続といいます。
本条の「相続人」は乙を、「その者の相続人」は丙を指します。甲の相続を第1次相続、乙の相続を第2次相続、甲を第1次被相続人、乙を第2次被相続人という。

相続税法20条は「相次相続」といいます。同条は、課税の特例なので、両相続の承認が前提になります。

cf. 相続税法20条 相次相続控除
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cf. 最決平17・10・11(遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件) 全文

判示事項
 相続が開始して遺産分割未了の間に第2次の相続が開始した場合において第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときの持戻しの要否

裁判要旨
 相続が開始して遺産分割未了の間に相続人が死亡した場合において,第2次被相続人が取得した第1次被相続人の遺産についての相続分に応じた共有持分権は,実体上の権利であって第2次被相続人の遺産として遺産分割の対象となり,第2次被相続人から特別受益を受けた者があるときは,その持戻しをして具体的相続分を算定しなければならない

e.g. Pが死亡し、妻Q・子R・S・TがPを相続した後、遺産分割手続未了のまま、Qが死亡し、R・S・TがQを相続したという事案であった。Pの相続について、Qが相続したのは法定相続分(2分の1)に基づく財産か、それとも具体的相続分に基づく財産かが争点となった。同決定は具体的相続分の算定を命じた。
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最判平1・8・9(執行文付与に対する異議事件) 全文

判示事項
 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義

裁判要旨
 民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいう。

e.g. 「相続の承認又は放棄をしないで死亡した者(乙)の相続人(丙)が,当該死亡した者(乙)からの相続(第2次相続)により,当該死亡した者(乙)が承認又は放棄をしなかった相続(第1次相続)における相続人としての地位を,自己(丙)が承継した事実を知った時」が第1次相続の熟慮期間の起算点になる(第1次相続基準説)。


最判平1・8・9は、丙が第1次相続の発生を認識せず、第2次相続の発生のみを認識していた場合については、第1次相続の発生を認識したときが第1次相続の熟慮期間の起算点になると判示しています(第1次相続基準説)。

再転相続で、丙が第1次相続の発生と第2次相続の発生を順次認識していたような場合には、甲の相続についての熟慮期間を乙の相続についての熟慮期間と同一にまで延長し、甲の相続につき必要な熟慮期間が付与されます(第2次相続基準説)(最判昭63・6・21)。

民法917条 相続の承認又は放棄をすべき期間(相続人が未成年者又は成年被後見人であるとき)

第917条 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第九百十五条第一項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。


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制限行為能力者の場合は、法定代理人の認識を基準としますが、保佐人や補助人は法定代理人ではないので、被保佐人や被補助人には適用されません。

被保佐人が相続の承認や放棄をする場合は保佐人の同意を得なければなりません。

cf. 民法13条1項6号 保佐人の同意を要する行為等
 
被補助人の場合は、相続の承認や放棄が同意の対象に含まれている場合に、補助人の同意が必要になります。

cf. 民法17条 補助人の同意を要する旨の審判等

民法910条 相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権

第910条 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。


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  • 分割後に認知された者については、分割をやり直すのではなく、価額賠償の問題になります。
  • 母子関係については認知をするまでもなく親子関係が認められ、本条も類推適用されないため、嫡出でない子がいる母の死亡による相続について、その子の存在を知らないまま遺産分割協議した場合は、分割当時に存在した共同相続人を除外してされた遺産分割として無効です。
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cf. 最判令1・8・27(遺産分割後の価額支払請求事件) 全文

相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既に当該遺産の分割をしていたときは,民法910条に基づき支払われるべき価額の算定の基礎となる遺産の価額は,当該分割の対象とされた積極財産の価額である。

民法906条 遺産の分割の基準

第906条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。


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遺産分割の方法について、優先順位に従って並べると次のようになります。

  1. 遺言による指定分割(相続分の指定、遺産分割の方法の指定)
  2. 協議分割
  3. 調停分割
  4. 審判分割

民法905条 相続分の取戻権

第905条 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
 
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。


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相続分を丸ごと譲渡した場合の規定です。特定の財産の持分を譲渡した場合は適用されません。
 
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相続分譲渡について

相続分の譲渡は、第三者へだけでなく相続人への譲渡もできます。
 
相続分譲渡とは、相続開始後、遺産分割前に行われる、「積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する」「割合的な持分」の譲渡をいい、これに伴って「個々の相続財産についての共有持分の移転も生ずる」(最判平13.7.10)ものです。

譲渡人は、相続人の身分を失うわけではありません。
 
譲渡されるのは、一般に、具体的相続分と解されており、したがって、譲受人は、譲渡人が有していた特別受益や寄与分を主張しうる地位、さらに遺留分を主張しうる地位も承継します。遺留分を主張して侵害分を請求できるようにまることも同様に捉えられます。
 
当事者の合意のみで成立する法律行為であり、合意があるとその時点で相続分が移転します。有償・無償を問わない。熟慮期間が過ぎてもかまいません。

cf. 民法915条 相続の承認又は放棄をすべき期間