民法987条 受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告

第987条 遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす


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特定遺贈の受贈者は遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄できるため、遺贈義務者や利害関係人は、遺贈を受けるかどうかを決めてもらわないと困るためです。

cf. 民法986条 遺贈の放棄

包括遺贈の受遺者は相続人と同一の権利義務を負うことになるので、「相続の承認又は放棄をすべき期間」の規定が適用されるため、本条は、特定遺贈に適用されますが、包括遺贈には適用されません。

cf. 民法990条 包括受遺者の権利義務

cf. 民法915条 相続の承認又は放棄をすべき期間

民法988条 受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄

第988条 受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。


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本条は、遺言者の死亡後に受遺者が死亡した場合です。この場合は遺贈は有効ですが、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合は遺贈は無効です。

cf. 民法994 受遺者の死亡による遺贈の失効

民法994 受遺者の死亡による遺贈の失効

第994条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
 
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。


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もう一歩先へ 1項:
遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合は、遺贈は無効で、代襲も生じません。

cf. 民法965条 相続人に関する規定の準用

遺贈が無効の場合、目的財産の権利は相続人に属します。

cf. 民法995条 遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属

遺言者の死亡後に受遺者が死亡した場合は、遺贈は有効です。

cf. 民法988条 受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄

民法986条 遺贈の放棄

第986条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
 
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。


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特定遺贈の放棄は、本条により、死亡後ならいつでもできますが、包括遺贈を放棄する場合は、包括遺贈の受遺者は、「相続の承認又は放棄をすべき期間」の規定が適用されることから、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述する方法により、遺贈の放棄を行う必要があります。

包括遺贈は、相続人を増やすのと同一の効果があるからです。

cf. 民法964条 包括遺贈及び特定遺贈

cf. 民法915条 相続の承認又は放棄をすべき期間

cf. 民法938条 相続の放棄の方式

cf. 民法989条 遺贈の承認及び放棄の撤回及び取消し
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遺贈と遺産分割方法の指定(特定財産承継遺言)との違いは、遺贈であれば個別にそれを受け取る(承認)、受け取らない(放棄)の選択ができますが、遺産分割方法の指定は相続と同じ効果を発生させるため、その受け取りを拒否するためには、相続放棄の手続を取ることが必要になります。

cf. 民法915条 相続の承認又は放棄をすべき期間

cf. 民法938条 相続の放棄の方式

民法975条 共同遺言の禁止

第975条 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。


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共同遺言をすると、各自が自由に撤回ができなくなるために禁止されています。

従って、1通の書面に書かれていても全く独立の内容である場合や、別々の自筆証書遺言が同一の封筒に入っている場合は、共同遺言に当たりません。

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cf. 最判昭56・9・11(遺言無効確認) 全部

判示事項
 同一の証書に記載された二人の遺言の一方に方式違背がある場合と民法九七五条

裁判要旨
 同一の証書に二人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方につき氏名を自書しない方式の違背があるときでも、右遺言は、民法九七五条により禁止された共同遺言にあたる。

民法985条 遺言の効力の発生時期

第985条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
 
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。


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公序良俗違反の遺言は無効、詐欺・脅迫等による遺言は取消しの対象になります。

民法972条 秘密証書遺言の方式の特則

第972条 口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
 
2 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
 
3 第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。


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民法964条 包括遺贈及び特定遺贈

第964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。


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施行日 2019(令和元)年7月1日

cf. 改正相続法附則1条 施行期日
cf. 改正相続法の施行期日

2019(令和元)年7月1日以降に開始した相続に適用されます。

改正前民法964条 包括遺贈及び特定遺贈

改正前民法964条ただし書が削除されました。

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包括遺贈は、相続人を増やすのと同じ効果があります。

cf. 民法990条 包括受遺者の権利義務

しかしながら、受遺者には遺留分の適用がないので、包括受遺者は、財産が遺留分より少ないとか、代襲相続の規定も適用がないので、包括受遺者が亡くなっても、その子が代わりにもらうことはありません。

cf. 民法965条 相続人に関する規定の準用
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包括遺贈には債務(マイナスの資産)が含まれるのに対し、特定遺贈ではプラスの資産だけであり、債務は含まれません。

また、遺言者が「所有する」全ての財産、「有する」全ての資産、と記載することがありますが、「所有する」という場合は債務などのマイナスの資産は含みません(「債務を所有する」とはいいません。)。
「有する」という場合は、債務を負担するという意味にも用いられ、プラスの資産だけでなくマイナスの資産も含むと考えられます。

しがたって、包括遺贈の場合には、「有する資産(「債務、費用等を含む」と記載しておけば誤解が防げます)」を使い、特定遺贈の場合には「所有する資産(例 不動産、預貯金等)」と記載することが正確な用語となります。

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cf. 最判昭39・3・6(第三者異議) 全文

判示事項
 不動産の遺贈と民法第一七七条の第三者。

裁判要旨
 甲からその所有不動産の遺贈を受けた乙がその旨の所有権移転登記をしない間に、甲の相続人の一人である丙に対する債権者丁が、丙に代位して同人のために前記不動産につき相続による持分取得の登記をなし、ついでこれに対し強制競売の申立をなし、該申立が登記簿に記入された場合においては、丁は、民法第一七七条にいう第三者に該当する。

cf. 民法177条 不動産に関する物権の変動の対抗要件
cf. 民法1013条 遺言の執行の妨害行為の禁止